【開催報告】第4回YILオンライン講座 #7 分子シミュレーション研究創発センター
矢上イノベーションラボラトリー(YIL(イール)所在地:神奈川県横浜市港北区日吉3-14-1/ディレクター:多田宗弘)は、慶應理工の研究ユニットによる研究のご紹介や、新たな科学・技術の解説をオムニバス形式でご紹介することを目的とする、YILオンライン講座を開催しました。
第4回は、分子シミュレーション研究創発センター泰岡顕治教授をゲストに招き、2026年2月19日(木)16時から、オンラインにて開催しました。

本イベントは、産学連携をお考えの企業のみなさまへ、慶應理工の研究領域の概要に対する理解を深め、研究者と民間企業との双方向コミュニケーションを円滑に進めるための基礎的な情報提供を目的としてYIL が主催し、研究者の協力を得て実施しました。当日の発表内容を、後日、資料、動画で紹介する予定です。(公開先は、YIL産学連携アライアンス会員に限ります)
7#分子シミュレーション研究創発センターを泰岡顕治教授が紹介しました。
分子シミュレーション研究創発センターは、分子シミュレーション技術を基盤として、量子化学計算、生体分野(タンパク質、生体膜、薬)、材料(ソフトマター、柔らかいものの物性を探る)、応用数学・数値計算法、スーパーコンピューターという非常に広い範囲の専門家と学生(博士・修士課程)が深く議論し、科学技術の発展と産業応用を目指す拠点です。
2025 年5月に決起集会、6月にキックオフミーティングを経て、東京科学大学との交流や学生による最先端研究の紹介、外部講師招聘による講演および、外部イベントで企業向けに博士課程学生の研究紹介を行うなど活発に活動しています。2026年春学期も引き続き、センター教員、学生による最先端紹介や外部講師によるセミナー(ポスト富岳、MN-CORE のような計算アクセラレータ上で、分子動力学シミュレーションを高速に実行するためのコード開発、電子状態を計算しながら、励起状態や状態遷移も考慮する手法)などを開催予定です。
続いて、センター教員の研究について、紹介しました。
機械工学科泰岡顕治研究室では、分子動力学シミュレーションを用いて、気相から液滴が形成される過程やクラスレート水和物の分子論、固体表面の濡れ性など、液体の基礎的な性質を研究しています。特に、ナノスケールの狭い空間に閉じ込められた液体が、通常とは異なる構造やダイナミクスを示す現象に注目しています。さらに、カーボンナノチューブと電場を利用した水とアルコールの分離技術や、AI(MD-GAN)を用いた分子拡散の解析など、応用的・先端的な研究にも取り組んでいます。
機械工学科荒井規允研究室では、ソフトマターを対象に、分子シミュレーションと機械学習を組み合わせた研究を行っています。分子を適切に単純化したモデル(素子化モデル)を用いて、分子集合体や材料、生体膜など、より大きな時空間スケールでの現象を解明しています。こうしたアプローチにより、従来は到達が難しかった新たな物性や機能の創出を目指しています。
物理情報工学科渡辺宙志研究室では、スーパーコンピューターを活用した大規模分子シミュレーションの研究を行っています。計算を効率化するためのSIMD化などの技術を用いながら、泡の形成や両親媒性分子による膜構造、さらには赤血球膜の挙動などを対象に、極めて大きな時空間スケールでの現象を解明しています。独自のシミュレーションコードの開発にも取り組み、複雑な生体・物質系の理解を深めています。
化学科畑中美穂研究室では、理論化学と計算科学を駆使して、機能性材料の理解と設計に取り組んでいます。特に量子化学計算や電子状態計算を用い、触媒反応や酵素反応、光触媒、光機能性材料などの分子レベルでの仕組みを解明しています。理論と計算に基づき、新しい材料や機能の創出を目指しています。
機械工学科村松眞由研究室では、材料科学を対象に、フェーズフィールド法による大規模シミュレーションを中心に研究を進めています。分子動力学シミュレーションや第一原理計算など異なるスケールの手法を組み合わせ、それらのデータを活用して材料の構造や特性の理解を深めています。さらに近年では、計算の高速化・高度化を目指し、機械学習や量子コンピュータの活用にも取り組んでいます。
機械工学科彭林玉先生は、数学を専門とし、分子シミュレーションに関連する応用数学の研究を行っています。特に、微分方程式や確率微分方程式を基盤として、ランダム法やDPD(散逸粒子動力学)、分子動力学などの計算手法の理論と解析に取り組んでいます。さらに、機械学習を取り入れた新しい計算手法の開発にも挑戦し、シミュレーションの精度向上と効率化を目指しています。
システムデザイン工学科山本詠士先生は、生体分子や膜、タンパク質といったミクロな現象から出発し、それらを単純化したモデルやフェーズフィールド法を用いて、大きな時空間スケールでの現象の解明に取り組んでいます。近年は、⾧時間・大規模なプロセスに着目し、マルチスケールでの理解を深化させています。さらに工学的観点から、温度勾配下での分子配向によるスイッチング現象や、グラフェンなどを用いた分子センシング技術など、多様な分野に研究を展開しています。
化学科稲垣泰一先生は、化学反応や物性、分子のダイナミクスを対象に、電子レベルから分子レベルまで幅広い計算化学の研究を行っています。特に、バルク溶液中の化学反応や、固体と液体・気体の界面で起こる反応、さらにイオン液体に代表される熱電気化学的物性の解明に取り組んでいます。多様な環境下での分子の振る舞いを理論・計算の立場から明らかにし、新たな化学理解と材料設計に貢献しています。
機械工学科佐藤碧海先生は、グラフトナノ粒子の性質解明と材料設計に加え、氷とポリマー界面のプレメルト層に着目し、摩擦や接着の制御に向けた研究を行っています。
理工学研究科平野秀典先生は、薬学を背景に、生体分子の分子シミュレーション研究を行っています。タンパク質とリガンドの相互作用(Ligand Interaction)や薬物探索を中心に、水のダイナミクスやタンパク質の機能・構造変化を分子レベルで解明しています。さらに、タンパク質の反応機構にも着目し、生命現象の理解と創薬研究への応用を目指しています。
グローバルリサーチインスティテュートの浅井誠先生は、ソフトマターの自己組織化現象に注目し、粒子ベースのシミュレーションを通じて新しい材料の創出を目指しています。コロイド系や高機能ガス分離膜の設計に加え、さまざまなゲルや超低濃度ゲルの構造とダイナミクスを解明する研究に取り組んでいます。分子や粒子が自発的に構造を作る仕組みを理解し、高機能材料への応用につなげています。
機械工学科Paul Brumby先生は、これまで液晶の構造やダイナミクスの解明に取り組んできました。近年は、CO₂ハイドレートのシミュレーションに焦点を当て、二酸化炭素の分離・貯蔵に関わる新しい技術の開発を目指しています。分子レベルでの相互作用を理解することで、環境・エネルギー分野への応用に貢献しています。