RESEARCHER'S VOICE

#3 コンピューターの中に自然を再現する ~量子力学で未来の材料を予言する~

明石 遼介 准教授 理工学部 物理情報工学科 准教授
理工学研究科 先端数物科学専攻
物理情報工学カリキュラム 准教授
#3 明石 遼介

明石先生の専門は固体物理学の理論研究です。

量子力学の基本法則を用いて、実際の物質がどのような性質を示すのかをコンピューター上で再現し、まだ発見されていない新しい材料を予測する研究に取り組んでいます。

「固体の性質をコンピューターの中で再現し、さらには新しい物質を予言できるようになりたいのです。」

新しい材料を理論的に予測できるようになれば、半導体や超伝導体をはじめとするさまざまな分野で、新たな材料開発につながる可能性があります。

しかし、そのためにはまず、自然界で起きている現象をコンピューターの中で正確に再現できなければなりません。

明石先生は、量子力学の方程式を用いて結晶中の電子や原子の振る舞いを精密に計算し、「なぜその物質がその性質を持つのか」という根本的な理解に挑んでいます。


発見よりも「理解」が面白い

明石 遼介 准教授

研究の面白さについて伺うと、明石先生は即座に答えました。「理解です。」

固体の結晶構造は実験によって観測できます。しかし、なぜその構造から特定の性質が生まれるのかという因果関係は簡単には分かりません。

「なぜこの結晶構造で、この性質が現れるのか。その仕組みをコンピューターの中で再現したいのです。」

実験では現象を観測できます。しかし理論研究では、その現象が生まれる原理を量子力学の方程式から説明しなければなりません。

明石先生は、実験結果を再現すること自体をゴールとは考えていません。その背後にある物理法則を理解し、なぜその現象が起こるのかを明らかにすることに魅力を感じています。

量子力学の方程式で現実の物質を解く

量子力学は、物質の性質を記述するための基本法則として確立されています。しかし、方程式そのものが分かっていても、実際の物質がどのように振る舞うのかを正確に計算することは決して簡単ではありません。

「量子力学の基礎方程式は分かっています。しかし、それを現実の結晶構造に適用したときに何が起こるのかは、実はそれほど明らかではないのです。」

明石先生は、実際の結晶構造に対して量子力学の方程式を適用し、コンピューター上でできる限り精密に解く研究に取り組んでいます。

目指しているのは、実験で観測される物質の性質を再現することだけではありません。

「本当に自然界で起きていることをコンピューターの中に再現できるのか。その理解を深めたいのです。」

なぜその結晶構造から、その性質が現れるのか。なぜ別の構造では現れないのか。量子力学に基づいてその因果関係を解き明かすことが、明石先生の研究の中心にあります。

コンピューターから未来の材料を予言する

こうした研究は、新しい材料の探索にもつながります。

現在、半導体をはじめとする電子材料の需要はますます高まっています。こうした材料は、元素が規則正しく並んだ結晶構造が元となって優れた性能を発揮しています。

企業では多くの候補物質を実際に作製しながら有望な材料を探していますが、もしコンピューター上でその性質を正確に予測できれば、材料開発を大きく効率化できる可能性があります。

明石先生が興味を持っているのは、

「もし理想的な結晶ができたら、どのような性質を示すのか」

という問いです。

将来的には、コンピューターの中でまだ存在しない物質を設計し、その有用性まで予測できるようになるかもしれません。

しかし、そのためにはまずシミュレーションが自然を正しく表していることが必要です。

「新しい物質を予言することも大切ですが、その予言がどこまで信頼できるのかを確かめることも同じくらい重要です。」

そのため明石先生は、新材料探索と並行して、シミュレーションそのものの精度向上にも取り組んでいます。

超伝導研究との出会い

明石 遼介 准教授

現在は新しい材料の予測やシミュレーション手法の開発に取り組む明石先生ですが、その研究の原点は大学院時代の超伝導研究にありました。
大学院時代、明石先生は超伝導物質を理論計算で正確に記述する研究グループに所属しました。当時から関心があったのは、実験で観測される現象をどこまで精密に再現できるかという点でした。「固体の性質を計算する手法は以前からありましたが、実験と同じ精度で再現するのは簡単ではありません。」

超伝導物質の研究を通じて、現実の物質をできるだけ正確に再現するための理論や計算手法を学び、それが現在の研究につながっています。

「超伝導から始まって、半導体やさまざまな材料へと研究対象は広がりましたが、一貫しているのは『どこまで精密に再現できるのか』という興味です。」

コンピューターから人類に役立つ材料を見つけたい

研究を続ける原動力について伺うと、明石先生は短期的な喜びと長期的な夢の両方があると話してくださいました。

「短期的には、量子力学の方程式をより賢く、より正確にコンピューターで解けるようになること自体に面白さを感じています。」

新しい計算手法を考え、これまで再現できなかった現象を説明できるようになる。その積み重ねが、研究を前に進める原動力になっています。

一方で、長期的にはさらに大きな夢があります。

「いつかは、人類の役に立つような材料をコンピューターの中から見つけ出したいと思っています。」

理論計算によって新しい材料の可能性を示し、そのアイデアが実際の材料開発へとつながっていく。自ら材料を作るわけではありませんが、シミュレーションを通じて新しい技術の種を生み出したいと考えています。

室温超伝導への挑戦

明石先生が現在特に関心を寄せているテーマの一つが、高温・高圧環境で実現する超伝導です。

超伝導とは、電気抵抗がゼロになる現象です。もし常温に近い環境で超伝導が利用できるようになれば、送電時のエネルギーロスを大幅に削減できるなど、社会に大きな変革をもたらす可能性があります。

近年、極めて高い圧力を加えた水素化合物の中で、室温近くで超伝導が現れることが報告されています。

しかし、そのような状態を実現するには、人が生活できないような超高圧環境が必要です。

「なぜ高い圧力をかけると超伝導が現れるのか。その仕組みを理解できれば、もっと低い圧力で実現するための原理が見つかるかもしれません。」

明石先生は、超伝導現象そのものだけではなく、その背後にある物理法則の理解にも挑んでいます。

企業・学生のみなさんへ

企業との連携については、特に新しい材料の開発に携わる研究者や技術者との協働に期待を寄せています。

「シミュレーションを行ったけれど、結果をどう解釈すればよいか分からない。そうした場面ではお力になれると思います。」

明石先生は、計算結果そのものだけでなく、その背後で量子力学の方程式がどのように振る舞っているのかを理解する研究を続けてきました。その知見を材料開発へ応用したいと考えています。
また、学生へのメッセージとして、理論研究の魅力についても語ってくださいました。

「実験で観測された物理量をコンピューターの中で再現できたときは、本当に面白いですよ。」

量子力学の方程式を解くためには、物理学だけでなく、数学やプログラミングの知識も必要になります。

「研究を通じて、物理学、数学、プログラミングを横断的に学びながら、サイエンスの基礎を身につけてもらえたらと思っています。」

未来を予言するために、まず自然を理解する

明石先生が関心を寄せているのは、個々の物質そのものというよりも、その背後で働いている物理法則です。

「私が興味を持っているのは、結晶の中で原子や電子の動きを支配している方程式です。その方程式を使うことで、どこまで現実の物質を説明できるのかを知りたいのです。」

物質を記述するための基本的な理論は、20世紀半ばまでにはすでに整えられていました。しかし、それを現実の物質へ適用し、コンピューター上で精密に扱えるようになったのは比較的最近のことです。

近年の計算技術の発展によって、これまで説明できなかった現象にも新しい視点から迫れるようになりました。例えば高温超伝導体の研究では、原子を単なる「点」として扱うだけでは実験結果をうまく再現できず、原子を量子的な揺らぎを持つ、広がった「分布」として扱う必要があることが分かってきています。

「研究を続ける中で、物質を理解するためには発想の転換が必要だと感じる場面が何度もありました。」

こうした研究は、実際に観測される現象のさらに奥にある仕組みを解き明かす仕事です。そのため成果がすぐに目に見えるわけではありません。しかし、その理解の積み重ねが、未来の材料発見や技術革新につながっていきます。

コンピューターの中に自然を再現すること。

量子力学が語る物質の振る舞いを理解すること。

そして、まだ存在しない未来の材料を予言すること。

それが、明石先生の研究であり、先生が描く未来への道筋です。